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“映画の星座盤”第61回「TIME/タイム」

一本の作品から広がる映画の世界…。
気がつくと、それは星座の輝き。
映画検定一級の映画相談人が、
星と星を繋げるように、映画と映画を繋げていきます。

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★ハイヒールでは走れないんです!
 家内と出掛けると言われるんですね。「もっとゆっくり歩いて」とか「あんまりあっちこっち行かないで」って。こういう時って大概、家内はハイヒールを履いています。男の私にはよく判りませんが、ヒールの高い靴で歩くのって大変なんですってね。ヒールが5cmぐらいだったら平気な距離でもハイヒールだと“八甲田山・雪の彷徨”みたいになるって、家内が言っていました。実際、ハイヒールを見て思います。これでは走れないよなって。

 昔、「マイアミ・バイス」(1984~1989年)の1話で女刑事がストリートガールに変装して張り込みをするってシーンがあったんですよ。彼女の姿はボディコンにハイヒール。で、彼女の眼の前に容疑者が現れるんです。細かい流れは忘れましたけど、容疑者は逃げ出して、女刑事は後を追うんですが、その時、彼女はハイヒールを脱ぎ捨てて、素足で走り出したんです。それを見た時、私は「すごいリアル!」って思いましたね。さすが、「ヒート」(1995年)、「パブリック・エネミーズ」(2009年)などのリアリスティック犯罪映画の巨匠マイケル・マン製作のドラマだけのことはあります。

 ところが最近はそんなリアリティを誰も気にしなくなったみたいで、「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」(2011年)は酷いんです。この映画のクライマックスは都会のど真ん中で善と悪の大型ロボットがくんずほぐれつの大乱闘を繰り広げます。この戦いに巻き込まれた主人公たち人間は高層ビルの上方階からの転落の危機にあったり、瓦礫の中を駆け回ったりするんですが、変なのが一人いるんですよ。それは本作のヒロイン。何と彼女、このクライマックスでずっとハイヒールを履いているんです。一緒に観ていた家内は呆れて、「足、挫いちゃうよ」ってボソッと言いましたが、映画の中では不思議なことに彼女、動きやすい軍靴の兵隊さんにまったく遅れをとらない見事な動きを見せるんです。いくら映画はウソだ、と言ってもこのリアリティのなさはあんまりだと思うんですよ、私。

 でも「トランスフォーマー」の監督は、アメリカのワースト映画賞"ゴールデン・ラズベリー賞"の常連マイケル・ベイ(同じマイケルでもえらい違いです)。だから、こんなリアリティから100万光年離れたことをやっても、まぁ、仕方ないかなって思いますけど、ショックなのは、お気に入りの監督がそんなことをやらかした時です。その監督の名はアンドリュー・ニコル。

★アンドリュー・ニコルの仕事
 私がニコルに注目したのは、1998年のこと。脚本を提供した作品とニコル自らが脚本・監督を務めた作品が公開されたのです。前者はジム・キャリー主演の「トゥルーマン・ショー」、後者はイーサン・ホーク&ユマ・サーマン主演の「ガタカ」。どちらも“人間賛歌”と云えるメッセージと“神”や“運命”に対する思索がSF的な物語世界で展開されるというもので、ほとほと感心したものです。これはどちらの映画も観た人なら同意して貰えると思います。その後もニコルはトム・ハンクス主演の「ターミナル」(2004年)のオリジナル脚本やアル・パチーノ主演の「シモーヌ」(2002年)、ニコラス・ケイジ主演の「ロード・オブ・ウォー」(2005年)を脚本・監督で発表するなど寡作ながら、その斬新な発想で映画マニアには気になる存在なのでした。

 そんな彼の6年ぶりの新作がジャスティン・ティンバーレイク&アマンダ・セイフライド主演の「TIME/タイム」(2011年)。しかしニコルはやっちまいました。

★君たち、時間がないんだろ?
 「TIME/タイム」の物語の詳しい設定は他の頁を参照してもらうとして、この映画のサスペンスの鍵になるのは“時間”です。登場人物たちは“時間”に追われるのです。とにかく彼らは急がなくてはなりません。だから彼らは走ります、とにかく走ります。ジャスティンは勿論、“カエル顔美人”アマンダ嬢も走ります。それなのにニコルは最もやってはいけないことをやってしまったのです。なんと、アマンダ嬢にハイヒールを履かせたのです。彼女の役柄はパーティばかりに出ている上流階級の娘って設定なので、最初はヒールでもいいですよ。でもね、事件に巻き込まれて走らなければならなくなったら、ヒールじゃまずいでしょ。それなのにアマンダ嬢は上の衣装は何度も替えるのに、足元だけはずっとハイヒールのまま。その姿に「どうしてもっと走りやすい靴を履かないの!」と突っ込んでしまうのは私だけではないはず。

 それだけじゃありません。ニコルはクライマックスでアマンダ嬢に無茶苦茶なことをさせるんです。アマンダ嬢贔屓の家内はそのシーンを見て、「足首が、足首が、アマンダちゃんの足首が…」と呻いておりました。ここまで書くと読者の方も勘づくとは思いますけど、ニコルがアマンダ嬢にさせたことは、その眼で確かめてください。女性ならきっと、家内のように「ああ…」と同情の声をあげることでしょう。

★『ローガンの逃亡』って知っていますか?
 そうそう、「2300年未来への旅」(1976年)って映画をご存じですか? 何ともやる気のない邦題ですけど、その年のアカデミー賞特殊効果賞を受賞した超大作です。日本では昭和30年代生まれの“20世紀映画少年”ぐらいしか知る人はいませんが、アメリカでは90年代半ばからずっとリメイク計画が進行している程のカルト映画なのです。

 「TIME/タイム」は明らかに、この映画を下敷きにしています。百聞は一見に如かず、もしご利用のレンタル店に「2300年~」があったら、一度、ご覧になってください。良い意味でも悪い意味でもびっくりしますよ。ちなみに私は二年に一度くらいの割で、観直す程、大好きなんですよ、この映画!

 さらにもう一本、「2300年~」を下敷きにした映画があるんですよ。それはユアン・マクレガー主演の「アイランド」(2005年)。こっちの監督は…マイケル・ベイ…!
 あら、繋がっちゃいましたね、ハイヒール監督が!

 それでは、また来月!

映画相談人・小玉大輔(「シネマ倶楽部」2012年7月号)
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2012/07/18(水) | 映画の星座盤 | トラックバック(0) | コメント(-)

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