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“映画の星座盤”第5回「ゾディアック」

一本の作品から広がる映画の世界…。
気がつくと、それは星座の輝き。
映画検定一級の映画相談人が、
星と星を繋げるように、映画と映画を繋げていきます。

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 1969年から数年の間、サンフランシスコを震撼させた事件がありました。“ゾディアック”と名乗る人物によって、5人の男女が殺されたのです。犯人の名をとって“ゾディアック事件”と呼ばれるようになったこの事件は、今なお未解決のままです。

★原作者ロバート・グレイスミスと映画化作品

 今回、星座をお作りする「ゾディアック」(2006年)は、この事件に関わったがために人生を狂わされた4人の男を通じて、事件の真相を解明した作品です。監督はデヴィッド・フィンチャー。出世作である「セブン」(1995年)で評判をとったリアリズム演出は本作でも健在で、見応えのある重量級の社会派実録映画に仕上がっています。

 本作の原作は、事件発生当時、地元サンフランシスコの新聞社で風刺漫画家として働いていたロバート・グレイスミスが独自の調査の末に1986年に発表したルポルタージュ「ゾディアック」。彼が導き出した結論は今なお議論を呼んでいますが、“ゾディアック事件”を追った著作の最高峰と評されています。

 このグレイスミスは他にもいくつかの犯罪・事件ルポを発表しており、その中の一作に“AUTO FOCUS”という作品があります。これは自作自演のセックスビデオの撮影に嵌り、遂には謎の死を遂げるTVスター、ボブ・クレインの半生を追ったものです。 このルポは主演グレッグ・ギニア&ウィレム・デフォーで「ボブ・クレイン 快楽を知ったTVスター」(2002年)として映画化されています。

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 監督はポール・シュレイダー。「タクシードライバー」(1976年)、「レイジング・ブル」(1980年)などのマーティン・スコセッシ監督作の脚本を書き、監督としても「アメリカン・ジゴロ」(1980年)、「キャット・ピープル」(1981年)、「白い刻印」(1998年)などを発表している人です。シュレイダーが関わった全ての作品で描いているのは、“妄想に囚われ、堕ちていく人間”の姿。これは「ボブ・クレイン」でも一貫しています。この人物像は「ゾディアック」にも通じる部分があります。事件に関わる3人の男は、とても“シュレイダー”的な人物像と言えるのです。興味のある方は「白い刻印」と「ゾディアック」を見比べてください。主人公のキャラクターの類似性に驚くこと、間違いなしです。

★「ゾディアック」と「大統領の陰謀」の共通点

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 さて、「ゾディアック」を観て思い出す作品があります。それは、ロバート・レッドフォード、ダスティン・ホフマン主演の「大統領の陰謀」(1976年)。アメリカ大統領ニクソンを巻き込んだ政治スキャンダル、ウォーターゲイト事件を暴いたワシントンポストの記者の取材活動をドキュメンタリー・タッチで描いた作品。その年のアカデミー賞に作品賞を含む8部門でノミネートされ、脚色賞、助演女優賞、美術・装置賞他4部門を獲得し、今なお実話を基にしたジャーナリスト映画の最高峰として高く評価されている傑作です。

 どうして「ゾディアック」を観て、「大統領の陰謀」を想起させるのかというと、作品のタッチがとても近いんです。感情を抑制した演出スタイル、沈んだ色調の撮影、そして舞台になる新聞社の編集部の雰囲気など、まるで「大統領の陰謀」と同じ時代に作られた作品と思えるほど。物語の時代設定が同じですから似ていて当然と言えば当然なんですが、2作を見比べるとフィンチャーの念頭には最初から「大統領の陰謀」があったんではないかと思えてきます。だって「ゾディアック」の音楽を担当しているのが、デヴィッド・シャイアなんですから。この人、「大統領の陰謀」の音楽も担当している大ベテランで、ここ何年間か映画音楽の仕事をしていないのです。そんな人にわざわざ作曲を依頼するなんて、シャイアが「大統領の陰謀」に関わっていたからとしか考えられませんよね。

 しかもこのシャイアさん、「ゾディアック」と同時期のサンフランシスコを舞台にしたフランシス・フォード・コッポラ監督作「カンバセーション…盗聴…」(1974年)の音楽を担当しているんです。で、「カンバセーション~」と「ゾディアック」のテーマ曲が同じ曲想なんですよ。こう気づくと、フィンチャーは確信犯的に「大統領の陰謀」を代表とする“70年代リスペクト”をしているんじゃないかと思えるんです。

★サンフランシスコが舞台の刑事ドラマ

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 ところで、“ゾディアック事件”からは一本の映画が生まれています。それは劇中にも登場する「ダーティハリー」(1971年)です。クリント・イーストウッドがサンフランシスコ市警の鬼刑事を演じた作品なんですが、この映画の悪役、連続射殺魔“スコルピオ”は“ゾディアック”がモデルなんですよ。「ダーティハリー」のクライマックスで“スコルピオ”はスクールバスをジャックするんですが、これは“ゾディアック”が警察に送りつけた脅迫文の内容を下敷きにしているのです。

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 実はもう一本、サンフランシスコを舞台にした有名な刑事アクションも「ゾディアック」に関係しているんです。それはスティーブ・マックィーン主演の「ブリット」(1968年)。「ブリット」を観ている人は、「ゾディアック」でマーク・ラファロが演じたサンフランシスコ市警の刑事トースキーのファッションやショルダー・ホルスターがマックィーンに似ているなぁと気づくと思うんですけど、「ゾディアック」が「ブリット」を真似ているのではなく、マックィーンがトースキー刑事を真似ているんです。実は、マックィーンは「ブリット」を演じるにあたって、トースキー刑事の仕草やファッションをリサーチしたんですって。「ブリット」でマックィーンが使う拳銃のホルスターもトースキー刑事が使っていたもののレプリカだそうです。「ゾディアック」でラファロが使うホルスターも同じくレプリカなんですよ。

 夜空に輝く星のごとく無数にある映画についてのあれこれ。それを星座のように繋げるのが映画の楽しみ。今回、お作りした星座はいかがでしたか?

 それでは、また来月。

映画相談人・小玉大輔(「シネマ倶楽部」2007年11月号)
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2007/11/01(木) | 映画の星座盤 | トラックバック(0) | コメント(-)

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