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“映画の星座盤”第14回「アメリカン・ギャングスター」

一本の作品から広がる映画の世界…。
気がつくと、それは星座の輝き。
映画検定一級の映画相談人が、
星と星を繋げるように、映画映画を繋げていきます。

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 「アメリカン・ギャングスター」(2007年)は、1970年代のニューヨークを舞台に、黒人麻薬王と鬼刑事の宿命の対決を、実話を基に映画化した作品です。

★ギャングと鬼刑事の対決!
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 マイノリティの麻薬王と鬼刑事の対決っていうと、1985年の「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」って映画を思い出します。主演はミックー・ロークとジョン・ローン。もちろんミッキー・ロークが鬼刑事でジョン・ローンが中国人麻薬王。監督は「ディア・ハンター」(1979年)のマイケル・チミノが務めています。

 で、この映画で何が凄いってね、ローク演じる刑事の性格がとんでもなく破綻しているんですよ。ベトナム戦争帰還兵って設定だからアジア人への偏見の塊なだけでなく、女性差別主義者のエゴイスト。まさに野獣なんです。よくもまぁ、主人公をこんなキャラにするよな~と感心するやら、呆れるやら。何でも監督のチミノと脚本のオリヴァー・ストーンは意識的に観客の好感を得られない男に描いたそうです。そんな“暴走サイテー男”が主人公ですから、物語のテンションは上がりっぱなし。正直言って、「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」を観た人間は、「アメリカン・ギャングスター」をぬるく感じてしまいます。

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 暴走鬼刑事と言えば、もう1本。こちらも実話ネタの「フレンチ・コネクション」(1971年)っていうのがあります。1960年代のフランス・ルートの麻薬組織を壊滅させたニューヨーク市警の鬼刑事の活躍を描いた作品で、その年のアカデミー賞で作品、監督、主演男優賞などの主要部門を独占した70年代刑事アクショんの傑作です。この作品でジーン・ハックマンが演じた主人公“ポパイ”ドイルってのが、これまた野獣。
日本劇場公開時の宣伝コピーは
「獲物を見つけた猟犬は決して振り返らない。それを捕まえるか 心臓が破れるまでは…。追う!追う!追う!ビルから地上へ 地上から地下へ 地下鉄 高架線 ハイウェイ フレンチ・コネクションを追う 本能にも似た執念で-追うことの中にだけ男は生きた」
だったんですけど、ほんと、この通り。「アメリカン・ギャングスター」には、この映画で描かれる事件が言及されますから、事前に観ておくことがお薦め。

★“ギャング通”への道
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 事前と言えば、「アメリカン・ギャングスター」の開巻で老ギャング王が死にますが、この男の名は“バンビー”ジョンソン。もちろん実在の人物で、彼の生涯を映画化したのが「奴らに深き眠りを」(1997年)。“バンビー”ジョンソンを演じるのは、「マトリックス」シリーズ(1999年、2003年)のローレンス・フィッシュバーン。1930年代のニューヨーク・ハーレムを舞台に、血で血を洗うギャングの抗争を描いた実録もので、“ラッキー”ルチアーノ、ダッチ・シュルツといった実在の大物ギャングがぞろぞろ出てきます。「アメリカン・ギャングスター」で“バンビー”ジョンソンをノン・クレジットで演じたクラレンス・ウィリアムズ三世が出演しているのも注目です。「奴らに深き眠りを」と「アメリカン・ギャングスター」を続けて観ると、黒人ギャングの年代記になります。興味のある人はどうぞ。

 そうそう、クリスチャン・スレイター、パトリック・デンプシー主演で“ラッキー”ルチアーノの若き日を描いた「モブスターズ/青春の群像」(1991年)まで手を伸ばすと、1930年代のニューヨークの暗黒街の全貌が判って、ちょっとした“ギャング通”になれますよ。

★“ニューヨーク市警通”への道
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 実は「アメリカン・ギャングスター」からは“ギャング通”への道だけでなく、“ニューヨーク市警通”への道も開けています。「アメリカン・ギャングスター」には、ニューヨーク市警の汚職刑事集団が出てきますが、彼らのあまりに酷い腐敗をフィクションと思う人もいるでしょう。でもあれは真実。これまで何度も映画で描かれています。中でもある・パチーノ主演の「セルピコ」(1973年)はその代表作。1970年代初頭、汚職に満ちたニューヨーク市警を告発した警官セルピコの勇気ある行動を実話に基づいて描いた秀作です。本作で描かれる市警は、犯罪組織と呼んでも間違いではない程腐っています。何より驚かされるのは、「セルピコ」で描かれる出来事が「アメリカン・ギャングスター」の前に起こっていることです。つまりセルピコが命がけの告白をもってしても、市警を浄化させることが出来なかったのです。

 「セルピコ」の監督シドニー・ルメットはニューヨーク市警の汚職の構造に並々ならぬ興味を持っている人で、同様のテーマを描いた作品に「プリンス・オブ・シティ」(1981年)と「Q & A」(1990年)を作っています。前者は実話ネタで、原作は「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」と同じロバート・デイリー。「アメリカン・ギャングスター」の汚職警官たちを主人公にした作品です。日本では未DVD化なのが残念ですが、ラスト・シーンの衝撃は長く語り継がれている“幻”の力作です。後者は1件の殺人事件から市警察と検察局の汚職に繋がっていく社会派ミステリー。この作品には「アメリカン・ギャングスター」との繋がりがいくつかあります。まず、どちらの作品にもアーマンド・アサンテがマフィアのボス役で出演していること。もうひとつは「Q & A」で汚職刑事を演じるニック・ノルティと「アメリカン・ギャングスター」の汚職刑事ジョシュ・ブローリンが、親子と見まがうくらいそっくりなことです。以上、3本のルメット監督作品を観ていれば、間違いなく1970年代の“ニューヨーク市警通”になれますよ。

★劇中に流れるソウル・ミュージック
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 ところで、「アメリカン・ギャングスター」の劇中に70年代のソウル・ミュージックがまるまる1曲流れるシーンがありますが、あの曲のタイトルは『110番街交差点』といいます。クエンティン・タランティーノ監督作「ジャッキー・ブラウン」(1997年)でも使われていますから、聞き覚えのある人もいらっしゃるでしょう。元々は70年代のブラック・ムービーの秀作「110番街交差点」(1972年)の主題歌として書かれた歌なんです。

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70年代ブラック・ムービーと言えば、ハーレムの麻薬売人を主人公にした「スーパーフライ」(1972年)という作品があります。「アメリカン・ギャングスター」の劇中で、この映画のこともネタにされますから、事前・事後にチェックしておくと何やら得した気分になれます。

最後になりますけど、「アメリカン・ギャングスター」って、劇場公開版より19分長い“アンレイティッド・バージョン”というのがアメリカでDVDになってるんですって。日本でもいずれリリースされるでしょうね。

 夜空に輝く星のごとく無数にある映画についてのあれこれ。それを星座のように繋げるのが映画の楽しみ。今回、お作りした星座はいかがでしたか?

それでは、また来月。

映画相談人・小玉大輔(「シネマ倶楽部」2008年8月号)
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2008/08/01(金) | 映画の星座盤 | トラックバック(0) | コメント(-)

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