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“映画の星座盤”第71回「96時間/リベンジ」!

一本の作品から広がる映画の世界…。
気がつくと、それは星座の輝き。
映画検定一級の映画相談人が、
星と星を繋げるように、映画映画を繋げていきます。

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★「ボーン・レガシー」で考える脚本家出身の監督の問題点

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 マット・デイモン主演の「ボーン・アイデンティティー」(2002年、04年、07年)シリーズの番外編「ボーン・スプレマシー」(2012年)ってご覧になりました?本家シリーズの脚本家トニー・ギルロイが監督を担当しているので、細部まで丁寧に作られた映画に仕上がっていましたね。でも物語の進むテンポがちょっぴり遅くなかったですか。これは脚本家出身の監督の映画にありがちなことなんです。

 脚本家は物語の理屈を重視します。例えばある人物が行動を起す場合、脚本家は舞台背景、人物が置かれている状況、行動を起こすきっかけと過程を具体的に考えます。つまり脚本家は物語を小説のように頭で語ろうとするのです。

 一方、生粋の映画監督は理屈を必要最小限に抑えようとします。なぜなら映画は映像で物語を語るものですから、主演スターを魅力的に撮り、目を奪う見せ場を用意し、シャープな編集を駆使して目で物語を語ろうと努めます。彼らにとって理屈は映画のテンポを阻害するものなのです。

 この脚本家出身の監督と生粋の監督の違いを具体的に知るのに最適な映画があります。それはアーノルド・シュワルツェネッガーが1985年に主演し、今なお一部で熱狂的な支持を集める「コマンドー」です。なんとこの映画、「ボーン・スプレマシー」で1時間かけた展開を5分でやってしまうのです。観終わった後、よくよく考えるとこの5分間の展開の物語上の意味は不明なのですが、観ている間は全く気になりません。機会があれば、是非、「コマンドー」「ボーン・スプレマシー」を見比べてください。映画における物語の語り方のなんたるかが判るはず。

★「コマンドー」は憎みきれないロクデナシ

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 とお薦めした「コマンドー」ですが、未見の方にあらかじめ言っておきますけど、この映画、はっきり言って脳みそまで筋肉なおバカ映画です。とにかくシュワが強すぎて、敵が弱すぎるんです。結果、全編爆笑どころと突っ込みどころの雨あられ状態。言ってみると、本作は友だちと一緒に酒を飲みながら観る“パーティムービー”なんですよね。かく言う私も友人たちとたまに本作を観るんですよ。最初のうちは爆笑の渦ですが、やがて、そのあまりに大雑把な展開のために笑いが凍りつき、最後には呆れて無言になってしまうのです。とは言え、私も私の友人も「コマンドー」を公開当時から何度も観ているんですけどね。「コマンドー」のように出来が悪いのは判るんだけど、駄作の一言で切り捨てられない映画を私はこう名付けています。“憎みきれないロクデナシ映画”ってね。

★「コマンドー」をちゃんと作ったら?

 そんな「コマンドー」の物語を大雑把に言うとこんな感じです。

 「元特殊部隊の精鋭メイトリックスの娘が謎の武装集団に誘拐された。救出のタイムリミットは11時間!今、父親の怒りの追撃が始まる!」

 元特殊部隊の父親?娘が誘拐?タイムリミット?
 あれっ?最近似たような設定の映画がありましたね。そう、「96時間」(2008年)です。こちらの物語はこんな感じです。

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 「元CIA工作員ブライアンの娘がパリで人身売買組織に誘拐された。救出のタイムリミットは96時間!今、父親の怒りの追撃が始まる!」

 ほぼ物語は一緒ですね。ただし、「96時間」のタイムリミットは「コマンドー」より9倍近くも猶予があるからでしょうか、細かいことをまったく気にしなかった「コマンドー」と違い、細部は結構練られていて、“憎みきれないロクデナシ映画”ではなく、普通に面白いアクション映画として、お薦め出来る仕上がりになっています。

 中でも映画ファンの間で語り草になっているのは、今まさに悪の組織に誘拐されようとする娘からのSOSの電話に父親が言う台詞です。ネタバレになるのでここでは書きませんが、これが無茶苦茶カッコ良いんです。この台詞を考え出した脚本のリュック・ベッソンロバート・マイク・ケイメンのコンビはスゴイ!と私は思います。
 勿論、設定が近似ですから、「96時間」の父親も「コマンドー」のシュワ同様、無敵です。正直、こっちも敵が可哀そうになってきます。でも「コマンドー」のようなバカバカしさは皆無なのです。その理由は主演のリーアム・ニーソンにあります。

★映画史上初の快挙を成し遂げたリーアム・ニーソン!

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 そもそもリーアム・ニーソンにはアクション映画のイメージはありませんでした。1981年に映画デビューして以来、シリアス・ドラマ専門の俳優だと思われていました。その頂点が「シンドラーのリスト」(1993年)です。その後、1999年に「スターウォーズ エピソード1」に出演してからは、「キングダム・オブ・ヘブン」(2005年)、「バットマン・ビギンズ」(2005年)、「ナルニア国物語 第一章:ライオンと魔女」(2005年)などで若者を導く“師匠”という一昔前のショーン・コネリーのような役を演じるようになったのです。これらの作品で生まれたニーソンの俳優としての特徴は“貫録”、“剛健”、“実直”というものです。

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 これが「96時間」というスティーブン・セガールが演じても不思議ではない映画に新鮮さを加えました。従来のアクションスターにある自己顕示的な見栄がニーソンにはないので、その無敵が「コマンドー」のようなギャグではなく、とてもリアルになったのです。

 かくてニーソン自身が、劇場公開されないビデオ・オリジナル映画だと思っていた「96時間」は全世界で興収2億ドルを越えるメガヒット作になったのです。そして俳優としての新しい面を披露したニーソンはその後、アクション映画に連続主演するようになりました。
 ニーソンが「96時間」に出演したのは55歳の時。 実は“50歳越えてからアクションスターになった人”は映画史上初めてなのです。そんなニーソンの最新作は「96時間/リベンジ」(2012年)。今度はどんな無敵の父親を見せてくれるでしょうか?

それでは、また来月!

映画相談人小玉大輔(「シネマ倶楽部」2013年5月号)
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2013/05/01(水) | 映画の星座盤 | トラックバック(0) | コメント(-)

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