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“映画の星座盤”第26回「ワルキューレ」から「地獄に堕ちた勇者ども」まで

一本の作品から広がる映画の世界…。
気がつくと、それは星座の輝き。
映画検定一級の映画相談人が、
星と星を繋げるように、映画と映画を繋げていきます。

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★トム・クルーズがドイツの英雄!?

 今月、星座をお作りするのは「ワルキューレ」(2008年)。第二次世界大戦末期の1944年、祖国の将来を憂い、ヒトラー総統暗殺計画“ワルキューレ作戦”を決行したドイツ軍人たちの姿を、実話を基に描いたサスペンス。監督と脚本は「ユージュアル・サスペクツ」(1995年)で世界をアッと言わせたブライアン・シンガークリストファー・マッカリーがあたっています。

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 2006年の「M:i:Ⅲ」以降の主演となるトム・クルーズが演じるのは、“ワルキューレ作戦”の実行者、クラウス・フォン・シュタウンフェンベルグ大佐。アイパッチ姿が凛々しい高貴な軍人を誠実に演じています。

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 このシュタウフェンベルグ大佐は戦後、彼の名を冠した街が出来るほどの国家の英雄。1955年に最初の伝記映画が作られ、最近では2004年にもその生涯がテレビドラマ化されているほどの国民的人気者なのです。

 それほどの偉人をトム・クルーズが演じるということにドイツ国内では遺族を始め、多くの人から強い反発が起こりました。小さな理由はトムが小柄なアイリッシュ系アメリカ人だったこと。本物のシュタウフェンエルグ大佐は190cmもある大男だったのに対し、トムは公称170cmしかありません。
 大きな理由はトムが所属している宗教団体“サイエントロジー”の問題。ドイツにおいて、“サイエントロジー”は反民主主義団体として常時監視の対象にあったのです。そんな団体の広告塔とも言える人間が国家の英雄を演じるなんて、そりゃあ、ドイツ人も怒りますよね。そのため、ドイツでロケを行ったものの、政府の協力がなかなか得られず、撮影には大変苦労したそうです。

 こう書いてくると、当時のドイツの政治状況などを把握していないと解りずらい硬い歴史ドラマと思われるかもしれませんが、ご安心を。ヒトラー暗殺が決行されるクライマックスの前後は、有名な♪チャン、チャン、チャンチャン♪っていう「スパイ大作戦/ミッション:インポッシブル」のテーマ曲が流れても違和感のない娯楽要素たっぷりのスリリングな展開になります。

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★オマー・シャリフが演じた役柄はトムよりすごい!

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 ところで、本作のモチーフとなる“ワルキューレ作戦”ですが、過去にも映画で描かれたことがあるんですよ。「将軍たちの夜」(1967年)って作品。ワルシャワで起こったドイツ軍高級将校による娼婦連続殺人事件と“ワルキューレ作戦”が交差する大作です。第一容疑者を演じるのは「アラビアのロレンス」(1962年)のピーター・オトゥール。粘着質で病的な演技は圧巻です。

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 そして、彼を捜査する情報部将校を演じるのが、「アラビアのロレンス」の共演者でもあるオマー・シャリフ。ここでビックリなのは、シャリフがエジプト生まれのアラブ人だってこと。アラブ人がドイツ軍人!?トム・クルーズどころの騒ぎじゃありませんね。もっとも、このシャリフさんはスターとしての全盛期だった60年代、他にもいろいろ信じられない役柄を演じているのです。

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 「日曜日には鼠を殺せ」(1964年)ではスペイン人のカトリック神父、「ドクトル・ジバゴ」(1965年)ではロシア人のジバゴ、「ジンギス・カン」(1965年)ではモンゴル人のジンギス・カン、「ゲバラ!」(1969年)ではキューバの英雄、チェ・ゲバラ、そして「うたかたの恋」(1969年)ではなんと、ヨーロッパの名門貴族ハプスブルグ家の皇太子。まさに人種の垣根を越えた、真の国際スターだったんです。

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★監督ブライアン・シンガーについて

 おっと、脇道に逸れました。話を「ワルキューレ」に戻しましょう。監督のブライアン・シンガーについて少し。日本ではあまり知られていませんけど、この監督はカミングアウトしているんですね、ゲイであると。

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 1998年にシンガーが監督した「ゴールデンボーイ」は、ナチス・ドイツ戦犯の老人と少年の怪しい関係を描いたスティーブン・キング原作のサスペンスです。どうもシンガーはナチス・ドイツに特別な関心を寄せているようです。主演はこれまたカミングアウトしているイアン・マッケラン。マッケランは同性愛者権利擁護運動家としても活躍しています。


★ナチス・ドイツを描く巨匠と言えば…

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 シンガーと同じゲイの監督で、ナチス・ドイツの世界をじっくり描いた監督と言えば、イタリアを代表する巨匠ルキーノ・ヴィスコンティです。日本では「ベニスに死す」(1971年)がとりわけ有名ですが、これは“ドイツ三部作”の第二部。第一部にあたるのが、ナチ第三帝国勃興を、ある財閥一族の崩壊を通じて描いた「地獄に堕ちた勇者ども」(1969年)です。映画のクライマックスに描かれているのは、ヒトラーが、かつての同志エルンスト・レーム率いる突撃隊全員を粛清した“長いナイフの夜”と呼ばれる事件。ここでヴィスコンティは実際にホモ集団だった突撃隊の最後の夜をネチっこく、ギトギトに描きます。安酒場のような照明の中、軍服に身を包んだ美青年たちの退廃美を見つめる、その描写は作品のバランスをぶち壊していると言っても過言ではありません。

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 ちなみにこの映画、公開当時、かの三島由紀夫が「久々に傑作と言える映画を観た。生涯忘れがたい映画作品のひとつになろう」って絶賛しています。その後、同じ事件を素材にした『わが友ヒットラー』という戯曲を発表します。三島と言えば…、言わずもがな。わかる人にはわかりますよね。そう言えば、トムにもそんな噂がついて回ってますよね~。

 夜空の星の如く無数に輝く映画。そのいくつかを星座のように繋げるのは映画ファンの楽しみ。今月の星座はいかがでしたか?

 それでは、また来月!

映画相談人・小玉大輔(「シネマ倶楽部」2009年8月号)
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2009/08/01(土) | 映画の星座盤 | トラックバック(0) | コメント(-)

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